年金の繰り下げ受給の損得計算をしてみる。注意点・デメリットは?
今回は、自分の備忘録として、勉強も兼ねて、年金についてまとめました。
今回のテーマは、「年金の繰り下げ受給」についてです。
僕個人を対象としていますから、内容はサラリーマン対象になります。
年金用語でいえば、第2号被保険者というものです。
もしかしたら、中には正確ではない情報が紛れ込んでいるかもしれませんから、怪しいと思ったところは自分で調べていただけると大変助かります。(苦笑)
1 年金の種類
サラリーマンを対象とした公的年金のうち、繰り下げ受給が可能となる年金の種類としては、大きく分けて2つあります。
今回取り扱う年金は、この2種類のみにとどめます。
1 老齢基礎年金(国民年金)
老齢基礎年金とは、国民年金法の規定により国民年金に加入し、一定の要件を満たした者が所定の年齢になってから受け取ることのできる年金のことです。
一般的には「国民年金」と呼ばれています。
1. 受給要件
老齢基礎年金は、受給資格期間が10年以上の人が65歳になったときから受け取ることができます。
受給資格期間とは、保険料納付済期間+保険料免除期間+合算対象期間(カラ期間)の合計のことを指します。
ただし、「保険料免除期間」は、自営業者等を指す「第1号被保険者」対象のため、ここでは割愛します。
合算対象期間については、説明が難しいので、日本年金機構の説明を参照してください。
老齢基礎年金などの受給資格期間をみる場合に、期間の計算には入れるが、年金額には反映されない期間のことです。
年金額に反映されないため、いわゆる「カラ期間」と呼ばれています。
合算対象期間には、
(1)昭和61(1986)年3月以前に、国民年金に任意加入できる人が任意加入しなかった期間、
(2)平成3(1991)年3月以前に、学生であるため国民年金に任意加入しなかった期間、
(3)昭和36(1961)年4月以降海外に住んでいた期間、
(1)~(3)のうち、任意加入を行い、保険料が未納となっている期間などがあります。(いずれも20歳以上60歳未満の期間)
2. 年金額
20歳から60歳になるまでの40年間の全期間の保険料を納めた人は、65歳から満額の老齢基礎年金が支給されることとなっています。
直近の平成30年度の満額は779,300円です。
免除期間等のある人はこの金額より少なくなりますが、その計算方法については割愛します。
また、「付加年金」という制度もありますが、こちらもサラリーマンではなく自営業者等の第1号被保険者を対象としているため、割愛します。
2 老齢厚生年金
老齢厚生年金とは、厚生年金保険法の規定により厚生年金に加入し、一定の要件を満たした者が所定の年齢になってから受給する年金のことです。
一般的に、「厚生年金」と呼ばれています。
厚生年金には、以下の2つがあります
・60歳から64歳までの特別支給の老齢厚生年金
・65歳以上の老齢厚生年金
特別支給の老齢厚生年金は、以下の2つに分けられます。
・定額部分・・・加入期間に応じた金額
・報酬比例部分・・・在職時の報酬に比例した金額
特別支給の老齢厚生年金とは、厚生年金保険の支給開始年齢が60才から65才に引き上げられた際に、支給開始年齢を段階的に、スムーズに引き上げるために設けられた制度です。
対象は、男性で昭和36年4月1日以前生まれ、女性で昭和41年4月1日以前生まれのため、僕は支給対象に該当しません。
1. 受給要件
老齢厚生年金は、受給資格期間が10年以上で、加入期間が1カ月以上の人が65歳になったときから受け取ることができます。
2. 特別支給の老齢厚生年金の年金額
定額部分は、以下の式で求めることができます。
1,625円(2017年度)×被保険者期間の月数
報酬比例部分は、以下のAとBを足して求めます。
A:平均標準報酬月額×(7.125/1000)×2003年3月までの被保険者期間の月数
B:平均標準報酬額×(5.481/1000)×2003年4月以後の被保険者期間の月数
3. 65歳以上の老齢厚生年金の年金額
65歳以降は、特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分が老齢厚生年金として支給されます。
4. 加給年金と振替加算
加給年金とは、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある人が65歳到達時点で、その方に生計を維持されている65歳未満の配偶者または18歳到達年度の末日までの子(もしくは20歳未満で障害等級1級または2級の未婚の子)がいる場合に支給される年金のことを言います。
加算される金額は、以下のとおりです。
配偶者・・・224,300円
1人目・2人目の子・・・各224,300円
3人目以降の子・・・各74,800円
加給年金額の対象者になっている配偶者が65歳になると、それまで支給されていた加給年金は打ち切られます。
このとき配偶者が老齢基礎年金を受けられる場合には、配偶者の生年月日に応じた金額が配偶者自身の老齢基礎年金に加算されます。
これを振替加算といいます。
5. 在職老齢年金
在職老齢年金とは、厚生年金を受けられる人が60歳以降も厚生年金保険の加入者として働いていると、年金の一部または全額が支給停止される制度のことです。
減額される計算式は以下の2つを使って計算し、年齢によって異なります。
※基本月額(年金)=老齢厚生年金÷12カ月
※総報酬月額相当額(給料等)=その月の標準報酬月額+(その月以前1年間の標準賞与額÷12カ月)
60歳から64歳まで
・基本月額+総報酬月額相当額が28万円超・・・一定額が支給停止
・基本月額+総報酬月額相当額が28万円以下・・・支給停止なし
65歳以上
・基本月額+総報酬月額相当額が46万円超・・・46万円を超える金額の2分の1が支給停止
・基本月額+総報酬月額相当額が46万円以下・・・支給停止なし
離婚に関する制度、および障害・遺族給付については、ここでは割愛します。
2 年金の繰り上げ受給・繰り下げ受給
老齢基礎年金と老齢厚生年金は、ともに原則65歳から受給開始となりますが、申し出により受給開始を繰り上げたり、繰り下げたりすることが可能となっています。
繰り上げ受給・繰り下げ受給を選択すると、年金額が調整されることとなります。
1 年金の繰り上げ受給
繰り上げ受給は、60歳から64歳までの間で選ぶことができます。
繰り上げた月数×0.5%が年金額から減算され、生涯にわたって減算された金額で支給され続けます。
したがって、繰り上げ受給を選択した場合、年金受給額は最大で0.5%×60カ月=30%減少します。
ただし、繰り上げ受給は老齢基礎年金と老齢厚生年金で同時に行わなければなりません。
2 年金の繰り下げ受給
繰り下げ受給は、66歳から70歳までの間で選ぶことができます。
繰り下げた月数×0.7%が年金額に加算され、生涯にわたって加算された金額で支給され続けます。
したがって、繰り下げ受給を選択した場合、年金受給額は最大で0.7%×60カ月=42%増加します。
また、繰り下げ受給は老齢基礎年金と老齢厚生年金で別々に行なうことができます。
3 年金の繰り下げ受給は本当にお得なのか?
厚労省の最新調査(2016年)によると、年金受給を繰り上げたり・繰り下げたりしている人の割合は、以下のように公表されています。
・「繰り上げ」を選択した人の割合・・・34.1%
・「本来の65才受給」の人の割合・・・64.5%
・「繰り下げ」を選択した人の割合・・・1.4%
繰り下げを選択した人の割合の低さといったら、この上ありません。
原因は、そもそも繰り下げ受給という制度を知らない可能性があるというのが1つ。
そして、年金は早くもらいたいという願望があり、わずかな金額が増えるくらいなら繰り下げるメリットは無いと考えられているのがもう1つ。
日本政府が繰り下げ受給を推奨し始めたのは、できるだけ1人あたりの年金の支払い総額を少しでも減らしたいというのが本音なのでしょう。
1 年金の繰り下げ受給の注意点その1 回収できない
繰り下げ受給を選択する際の注意点は、繰り下げた分の年金を回収できない可能性があるという点です。
仮に年金受給額が10万円だとします。
5年繰り下げると、年金受給額は14.2万円に増額します。
一方で、その5年間でもらうはずだった年金受給額は10万円×60カ月=600万円にのぼります。
この600万円を増額した4.2万円ずつもらって、600万円全額を回収するのにかかる期間は600万円÷4.2万円=142カ月、11年10カ月です。
よって、70歳から受給開始すると、81歳まで生きないと回収できない計算になります。
男性の平均寿命は81歳なので、回収できない可能性も十分ありうるということになります。
2 年金の繰り下げ受給の注意点その2 課税対象になる
年金で忘れてはいけないのは、年金も課税対象であるという点です。
年金は雑所得扱いとなり、所得税と住民税の対象となります。
ただし、65歳以降であれば、年間120万円までは非課税扱いです。
先の例のように、年金受給額が10万円だとしたら、年間120万円ですから非課税で済みます。
しかし、繰り下げ受給で受給額を14.2万円まで増額させても、非課税は120万円までですから、170.4万円に増えたとしてもその全額受け取ることはできません。
まとめ
以上いかがでしたでしょうか?
年金の繰り下げ受給の注意点は分かりましたでしょうか?
あなたはそれでも繰り下げ受給を選びますか?
しかし、繰り下げ受給には何のメリットもないわけではありません。
例えば、夫婦で妻のみ繰り下げ受給を利用するという手もあるでしょう。
女性の方が平均寿命が長いですし、厚生年金の受給額が少なければ、非課税で済むかもしれません。
年金は制度が複雑ですから、正しい知識を身につけておくことが自己防衛の第一歩です。
日本政府がどのような手を使ってくるか分かりませんから、常に最新情報をチェックしておくことをおすすめします。