【書評】言志四録[現代語抄訳]
本日ご紹介するのは、こちらの本です。
あまり聞いたことのない人も多いのではないでしょうか?
知る人ぞ知る日本の名著です。
『言志四録』の著者・佐藤一斎とは何者?
佐藤一斎の著書『言志四録』が人々に知られるきっかけとなったのは、小泉純一郎(当時首相)が衆議院の演説の中でその一節を述べたことでした。
一般的にはあまりなじみがないと思われる『言志四録』。
実は、一部の人の中ではバイブル的な書物として知られています。
特に、人の上に立つ立場、リーダーにとっては必読書とも言える存在です。
では、そんな書物を書いた佐藤一斎とはどのような人物なのでしょうか?
佐藤一斎は、安永元年(1772年)に美濃岩村藩・佐藤信由の子として、江戸藩邸で生まれました。
日本史的には、田沼意次が老中に就任した年にあたります。
佐藤家は、古くから儒学をもって藩政に加わっており、一斎もその影響から幼少より勉学を学ぶことになりました。
20歳のとき大坂へ行き、さらに見聞を広め、22歳で江戸に帰郷。
大学頭・林簡順の元で儒学を学び、34歳で林家の塾長に抜擢されました。
そして1841年、70歳のとき、昌平黌の儒官(現在で言えば、東京大学総長のような立場)に就任。
1859年9月に88歳で亡くなるまで、学界の最高権威として多くの若者たちを育てました。
なんと、ペリーの来航の際に結ばれた日米和親条約の文書作成にも関わっているのだとか。
佐藤一斎の門下生はビッグネームだらけ
『言志四録』という名著を書いた佐藤一斎は、江戸幕府の儒官という立場ですから、朱子学が専門ということになります。
しかし、あまりに広い見識は陽明学にまで及んでいたことで、「陽朱陰王」と呼ばれていたようです。
その門下生の数、およそ6,000人。
6,000人もの門下生がいれば、その中から英傑が現れるのも当然です。
最も知られている人としては、佐久間象山の名前が挙げられるでしょうか。
佐久間象山も知る人ぞ知る江戸後期の思想家です。
この佐久間象山の開いた塾に通っていたのが、吉田松陰であり、勝海舟であり、そして短い期間ではありましたが坂本龍馬も通っていました。
他にも小林虎三郎(「米百俵」で有名)、橋本佐内、岡見清熙(慶應義塾の原点を作った人)など、幕末の錚々たる顔ぶれが門下生にいます。
佐藤一斎のその他の門下生としては、横井小楠、渡辺崋山、山田方谷など。
山田方谷の門下には、あの河合継之助もいます。
さらには、あの西郷隆盛が『言志四録』を愛読しており、西南戦争のときにもこの書を座右の書として持ち歩いていたとか。
西郷隆盛は『言志四録』の中から101条を抜き出し、『南洲手抄言志録』として後世に残しています。
こうしてみると、幕末の志士たちのルーツを辿ると、高い確率で佐藤一斎に当たるという、幕末から明治維新の時期にかけて、とてつもなく大きな影響を与えた人物であることが分かります。
『言志四録』とは?
ここまでで佐藤一斎という人物の偉大さがなんとなく伝わったと思いますが、そんな偉大な人物が残した『言志四録』という書物。
実は、一冊の本ではありません。
全部で4冊の本の総称です。
佐藤一斎が42歳のころから書き始めた『言志録』に始まり、『言志後録』『言志晩録』『言志耋録(てつろく) 』の4冊です。
その中身はというと、今どきの本に例えるなら、『仕事や生き方にとって大事な〇〇つのこと』みたいなものでしょうか。
ちょっと軽々しすぎて失礼な例えですが、生きていく上での大切な考え方が、4冊合計1,133個集まっているという至極の名著です。
現代社会にも通じる考え方がそこには広がっています。
今回紹介した本は、1,133個すべてが掲載されているわけではなく、訳者によってピックアップされ、現代語訳されたものが紹介されています。
その中から、いくつかをご紹介します。
『言志四録』より『言志録』第148条
人から信用されることは難しい。いくらうまいことをいっても、人はその言葉を信用しないで、その人の行動を信じるからだ。いや、行動を信じるのではなく、その人の心のあり方を信じるのである。
(引用元:『言志四録』p66)
人から信用されるには、言葉ではなく行動が大事。
その行動の背景にある心こそが大事と説いています。
ついついうわべだけの言葉でその場を取り繕うことがありませんか?
仕事をしていく上で、社内・クライアントと良好な関係性を築くには、心からの行動が大事であることを改めて考えさせられる一節です。
『言志四録』より『言志後録』第18条
つまらないことを考えたり、他のことに心を動かされたりするのは、志がしっかり立っていないからだ。志が確立していれば、邪悪な考えなどすべて退散してしまう。これは清らかな水が湧き出ると、外からの水は混入できないのと同じである。
(引用元:『言志四録』p93)
人生がうまくいくかどうかは、志次第であるという教えです。
まさに仰せのとおりです。
貯金したいと思っていながら、欲望に負け、お金を使い続け、貯金できない人たちは、間違いなく志が立っていません。
貯金というより、貯金して何をしたいのかが定まっていないのでしょう。
『言志四録』より『言志晩録』第60条
少にして学べば、則ち壮にして為すこと有り。
壮にして学べば、則ち老いて衰えず。
老いて学べば、則ち死して朽ちず。
(引用元: 『言志四録』 p143-144)
「三学戒」と呼ばれる超有名な一節です。
これは訳ではなく、原文のまま覚えておいたほうがよいでしょう。
死後に名を残そうとは思わなくても、学び続けることが生涯の宝になることを説いています。
日本人は、大学生・社会人になると一気に勉強量が減る特殊な人種ですから、本を読むとか、常に何かしら新しいことを学び続ける姿勢を持ち続けたいものです。
『言志四録』より『言志耋録』第266条
遠方へ行こうとするとき、ややもすれば正規のルートを外れて、近道を選んだりするが、結局は道に迷って遅れることがある。
バカな話だ。
人生行路でも、これに類することが多いので、とくに記しておく。
(引用元:『言志四録』p240)
近道をしようとして、失敗して遠回りになったり、目的地に到着できなかったりすることがあります。
勉強や仕事に限らず、資産形成もそうです。
老後資金2000万円不足問題が生じてから、金融庁の狙いどおり投資に対する興味関心が高まっているようです。
しかし、投資で結果を焦るあまり、資産を溶かしてしまう人たちがきっと続出するのでしょう。
結局、地道な努力を積み重ねた人が勝つのです。
まとめ
以上『【書評】言志四録[現代語抄訳]』でした。
いかがでしたか?
毎日のように新しく出版される本、そして海外の著名人の翻訳された本もいいですが、日本の古典にも優れた本があることを知っていただけましたか?
長きにわたり読み継がれるのには理由があります。
一度、日本の古典に立ち返り、改めて日本人としての心の在り方を考えてみるのもよいのではないでしょうか。